前田ヒロ

自分の「AIナラティブ」は、信じてもらえるのか?

March 17, 2026
Episode Description from the Publisher

あなたの会社もこんなことを考えていないだろうか──どうすれば、自社をAI企業として再ポジショニングできるか、と。 プロダクトにAIを組み込んだ。「AI企業」としてAIエージェントで勝負した。ウェブサイトのコピーも書き直した。発表もした。でも、投資家の反応はどこか薄い。ユーザーの熱量も期待したほどではない。「何かが足りない」のは分かっているけれど、それが何なのかが言語化できない。 同じ「AI」を掲げているのに、なぜあの会社は、信じてもらえるのか。なぜ自分たちはそうじゃないのか。僕が今考えている答えは、「人間に信じてもらえるかどうか」だ。ウェブサイトにAIと書いても、誰も振り向かない時代になった。「AI-Firstプロダクト」すら、もはや差別化の言葉じゃない。 では、何が『信じてもらえる』ナラティブをつくるのか。今日は、その問いを一緒に考えたい。 「やっている感」は、通用しない 自分たちがやってきたことは、マーケットが見抜いてしまっているのかもしれない── 既存の機能にAIを組み込んで「AI-powered」と打ち出したが、それがビジネスにどんなインパクトをもたらしたのか、まだ数字で語れていない。AIエージェントを発表したが、利用データも顧客の成果も示せない。投資家向けプレゼンではAIを語るが、プロダクトのアーキテクチャもチーム構成もロードマップも2年前と同じ…… そこには、動かなければならないプレッシャーがあった。だから動いた。それは間違いじゃない。 でも、マーケットはすでに「抗体」を持っている。表面的なAIの主張は、プラスになるどころか、信頼を静かに削っていく。マーケットは、想像以上に賢い。 AIが進化した先に、あなたのプロダクトはどうなるか? AIが進化すればするほど、自分たちのプロダクトは強くなるのか。それとも、代替されるのか。 あなたは、この問いにどう答えるだろうか。その答えがストーリーとなり、ナラティブの核になる。 AIが進化し続けたとき、自身のプロダクトはバリューチェーンのどこに位置するのか。理想は、LLMの進化とAIの普及によって、自社プロダクトの価値が高くなり、利用を増やす構造になっていることだ。 SnowflakeのCEO Sridhar Ramaswamyは、そのロジックを明確に語っている。LLMが進化するほどデータ量は増え、アクセス需要が高まる。つまり、AIが普及すればするほど、Snowflakeの利用も増える。「データのガバナンスと分析のプラットフォーム」から「AIネイティブなアプリケーションとワークフローを構築・実行するプラットフォーム」へのビジョンは、その構造的なロジックの上に立っている。 Figmaは、少し異なるアプローチを取った。自社プロダクトがClaudeと連携することを発表し、FigmaがAIに向かって走っている姿勢を鮮明にしたのだ。FigmaとClaudeの間には多くのシナジーがあることを示し、さらにAIモデルをプロダクトに組み込み続けることで、Figmaのツールをより強力にしていくと宣言した。このClaude連携の発表は、Figmaが市場予想を上回る業績、NRRの向上、営業利益率の改善を発表したタイミングと重なっている。 どちらの企業も「AIを使っています」とだけ言っているのではなく、AIの進化が自社の成長につながる、構造的なロジックを示している。それが、信じてもらえるナラティブの正体だ。 それでも、数字はすべてだ 「数字を出せ」と言われるのはわかっている。でも、何の数字を、どのレベルで示せばいいのかが、実はまだ誰にもわかっていない。 ただ、一つだけ確かなことがある。成長の再加速、突出した収益性。これ以上に強いナラティブはない。Figma、Snowflake、Shopify、Palantirのように成長の再加速やマージンの改善を実現した企業は、相対的に良いマルチプルで評価されている。 でもここには、AI時代における「良い数字」のベンチマークが、まだ定まっていないという問題がある。Rule of 40、NRR、Gross Margin──従来のSaaS指標は、AIがコスト構造と成長カーブを同時に変える世界では、再解釈が必要になるだろう。 Palantirは、興味深い事例だ。売上$4.4B超でRule of 40スコアが127。異例な数字だ。でも、これが新しいベンチマークなのか、それとも唯一無二のアノマリーなのか? 僕は後者だと思っている。つまり、Palantirをベンチマークにしても、自社の文脈では意味をなさない可能性が高い。 だから問いはシンプルになる。自社のピアセットはどこか。そこと比べて、速く成長し、効率的に動けているか。 最高のAIナラティブとは、結局のところ「期待を超える数字」なのだ。 社内でのAI活用は、強烈なシグナルになる チームにAIを使えと言っている。でも、自分自身はどうだろうか。 投資家がかなり敏感に反応するのに、自分が意外と見落としてしまうポイントがある。それは、創業者やCEO自身が、AIとどう向き合っているか、だ。 “We don’t just sell AI. We run on it.”(AIを売るだけでなく、自分たちがAIで動いている) この姿勢を体現しているのがShopifyのCEOだ。彼はこれまで以上にコードをコミットしているという。社内メモにはこう書かれている。 “Reflexive AI usage is now a baseline expectation at Shopify.”(AIを反射的に使うことが、Shopifyにおける基本的な期待値になった) 追加の人員を要求する前にAIでできない理由を証明すること。AI活用能力が人事評価と採用の判断基準に組み込まれたこと。プロダクトデザイナーはすべてのプロトタイプにAIツールを使うこと。彼はこれを、生存のための必須条件と位置づけている。 […]

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